訪日客特需が日本の観光産業をダメにする理由
四半期の訪日客消費額が1兆円を突破したものの
先日、メディアで一斉に報じられた、今年7月~9月の第三四半期の訪日客消費額が
1兆円を超えたというニュース。
アベノミクスが目標とする年間4兆円も射程に入ってきました。
また、年間の訪日客数も、念願の2000万人突破が見えてきたことで、訪日客特需への期待は高まっています。
そんな中、冷や水をかけてしまいますが、私はこの状況に少し眉をひそめております。
急減する日本人の国内旅行消費額
日本の観光産業を支えているのは、何と言っても日本人です。観光消費額の86%は日本人が占めている現状を鑑みると、それは揺るぎないことです。
その事実を背景に考えると、先の訪日客特需に浮かれていてはいけません。
実際に、2014年の訪日客の消費額は約6100億円プラスだったことに対し、日本人の国内旅行消費額は実に1兆6400億円のマイナスになっています。
この状況を見ると、穴の開いた器にどんどん水を入れている状況と同じです。器には水はいつまでたってもたまりません。
訪日客特需に浮かれている間に、日本人の国内観光客の消費額は急減しているのです。
ただし、そこに手を打っている自治体はほとんどありません。
手を打つどころか、そのことに気づいていない自治体がほとんどでしょう。
これが、日本の観光産業をダメにする理由の一つ目です。
訪日客が日本の観光産業をダメにする理由(その2)
次に、2つ目の理由を挙げます。
これは、訪日客が大挙押し寄せることで、本来の「おもてなし」「ホスピタリティー」
の質が大きく低下してきていることです。
私も実際に、訪日客に人気のある観光スポットに何度か行きましたが、売店に殺到する訪日客や、公共の交通機関を停めて乗務員に道案内を聞きこもうとする訪日客を相手に、本来、日本人に根付いていた「おもてなし」の気持ちが薄れ、店員等のサービス提供者側が、事務的に、ただ淡々と対処する場面がたびたび散見されました。
笑顔で、真心こめて接するという態度とは程遠く、表情は硬く、疲弊感漂う応対に、日本人である私自身もがっかりして帰りました。
今後、さらに日本の観光スポットに訪日客が押し寄せれば、益々、日本の「売り」ともいえる「おもてなし」「ホスピィタリティー」マインドが消え失せるどころか、果ては日本人観光客の足も遠のく事態に発展する可能性があるのです。
これがダメにする理由の2つ目です。
2020年前にするべきこと
今後、2020年の投稿オリンピック開催までに、日本が本当のインバウンド大国として
発展、成長を遂げるには、いくつかのハードルを越えなくてはなりません。
基本的にやるべきことは3つに集約されると思います。
先ずはインバウンド受入促進をする一方で、日本人観光客数の増大を目指すために、多様化・複雑化する日本人の観光ニーズを再点検し、提供コンテンツの拡充を見直すということ。次に、日本人の「おもてなし」を再定義し、持続可能なサービス提供スタンスを確立すること。「おもてなし」=無料奉仕ではなく、欧米型スタンス、つまり奉仕する代わりにサービス料も享受するといった、サービス提供者側の価値観の変容が求められます。
そして最後は、訪日客と日本人観光客が共存できるような環境の整備をすること。例えば、宿泊先や交通機関における多言語表記の全国統一化、観光産業人材のグローバル視点を持った育成強化、訪日客と日本人観光客との交流を促進する仕掛けの構築など。訪日客が日本にごく自然に溶け込むような環境を創り上げることが求められます。
訪日客2000万人時代の到来が間もなくやってきます。
インバウンド大国へ向けた官民挙げての取り組みで、訪日客特需を一時のブームにしないしたたかな戦略が、今求められるのです。
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