阪神・金本新監督に見る、最強マネジメント術 5つのポイント

野球賭博や金銭授受問題など、最近の日本プロ野球のニュースは暗さが目立ちます。

そんな中、唯一の光明ともいえる現象が、金本新監督が率いる、阪神タイガースの躍動ではないでしょうか。

今年のオープン戦では、12球団トップの成績を残し、また多くの評論家が今年の優勝予想に阪神タイガースを挙げる中、3月25日の開幕に突入しました。

なぜ、これほど短期間でチームの変革を成し遂げることが可能なのか?

金本新監督の最強マネジメント術を紐解きます。

 

■1.厳しさと明るさのムードつくり

金本新監督は就任当初から「厳しさと明るさ」をチームに求めたいと述べていました。厳しい指導の中にも、明るいムードつくり、この一見相反する二つのキーワードをあえて同時に並べることで、選手に対して「キャンプの厳しいトレーニングを乗り越えよ」

とのメッセージをしたためました。

 

昨今の組織をマネジメントする管理職は、コンプライアンスを過度に意識するあまり、厳しく指導することをためらい、部下に必要以上に気を遣い、些細なことでも褒める傾向が散見されます。気を遣うことや、褒めることが決して悪いわけではありません。しかし、組織を活性化させるうえでは、時として厳しい指導も勇気をもって行うことが求められます。ただ、相手の人格を否定したり、陰でコソコソと噂話をするのではなく、明るく、後腐れのない、絶えず「明るさ」を持って、厳しい指導をすることが必要であることを、金本新監督は就任早々に実践したのです。

 

■2.シンプルなビジョンの浸透

今年の阪神タイガースのビジョンは「超変革」です。

ただの変革でない、超がつく変革。つまり、今までの体制を全て見直し、変えていく覚悟がその言葉には込められています。

2月1日のキャンプ初日から、この「超変革」というビジョンをチームに浸透させるべく、メディアも活用して、あらゆるところで、このワードを露出させました。

選手やチーム関係者に対し、いやでもこのワードを意識せざるを得ない環境を作り出すことで、短期間のうちに一気に、ビジョンの浸透が進みました。

 

組織を活性化させるうえで、このビジョンを浸透させることは、最も重要かつ最も難しい仕事の一つであると言えます。

企業のトップが一生懸命、声高に理念や思いを伝えても、下位層には届かず、何となく冷めた雰囲気が漂っている組織は少なくありません。

どこかの経済評論家が述べている言葉を一生懸命記憶して、社員に伝えるような必要はありません。金本新監督が掲げた「超変革」というような、シンプルで誰でも理解できるワードを繰り返し発信し続けることで、組織内に一気に、その意図や思いを浸透させていくやり方が、とても効果的であると思います。

 

■3.大胆な人事ローテーション

金本新監督の就任が決まると同時に、一気にチームのコーチ人事に着手しました。

まず、自身の相棒として、矢野守備バッテリーコーチを招へいしました。

次に片岡、浜中両打撃コーチ、香田投手コーチ等、コーチの重要ポストにコーチ経験のない若手を大胆にも抜擢したサプライズ組閣をしました。

阪神タイガースという伝統あるチームで、このような大胆なコーチ編成をするのは、フロントの理解ももちろんありますが、何よりもその青写真を描いた金本新監督のなみなみならぬ「決意」があったからこそだと思います。

 

組織をマネジメントする上で、課長なら課長代理や係長など、自身の右腕となるべく

ポストを選ぶ際に、自身の上司やトップなどの周囲の「意向」に振り回されることは少なくありません。

しかし、時には周囲を説き伏せ、自身が最良であると考える人事ローテーションを組み上げることも必要です。もちろん、それで結果が出なかった場合は、大きなしっぺ返しが来ることを覚悟してであることは言うまでもありません。

その「勇気」があるかどうか、マネジメントの大きなポイントの一つと言えましょう。

 

■4.ベテランへの敬意と刺激

金本新監督は、就任早々期待する選手に、鳥谷選手や能見選手といった、ベテラン層の名前をあえて公言しました。「超改革」というビジョンのもと、周囲からは新戦力を期待する声もある中、古株を持ち上げ、「まだまだやれる」「チームには必要な戦力」というメッセージをしたためました。このベテラン層への「敬意」とも受け取れるメッセージは、彼らを刺激するには十分なカンフル剤となりました。

キャンプやオープン戦を通じて、若手とともに躍動するベテラン層の姿がありました。

特に、メジャーリーグも経験した西岡選手に対しては臆することもなく、「レギュラー剥奪」を公言しつつ、定位置の再奪取を促しました。

また、今年から二軍監督に就任した掛布氏に対しても、全幅の信頼を寄せ、絶えず1軍と2軍の情報共有を活性化させることも、先輩二軍監督への大きな「敬意」の表れでしょう。

経歴では金本新監督を上回るミスタータイガースこと、掛布二軍監督も、若い金本新監督に対し、全面的にサポートする姿勢を見せています。

 

このように、組織を活性化させるうえで、チーム内の「古株」いわゆるベテラン層をうまく刺激することは大変重要なマネジメントとなります。

ややもすると、就任間もないマネジャーを「お手並み拝見」とばかりに、斜に構えて眺める彼らを上手く人心掌握する術を持つことは、管理職として成功するポイントと言えます。

その際に、彼らに敬意を払いつつ、失敗したら次はないという危機感もちらつかせながら

モチベーションを上げていくことが必要になります。

 

 

■5.若手の積極登用

金本新監督はベテラン敬意と刺激を払いつつ、実績のない若手をどんどん登用しました。

その代表格が高卒3年目、20歳の横田選手です。過去2年間は1軍の出場経験はありませんが、その潜在能力を認め、キャンプから1軍で使い続け、なんとオープン戦では12球団トップの打率を残しました。そして、忘れてならないのが、自らドラフト一位のカードを引き当てた高山選手です。元々実力は折り紙つきではあるものの、プロで実績のない選手をいきなりレギュラーに抜擢するのは勇気がいるものです。金本新監督は、オープン戦では彼を起用し続け、またそれに応えるかのように、高山選手も結果を出し続けました。

金本新監督と言えば現役時代、だれもが認める超一流の打者でした。ややもすると、自身で取ったドラフト一位の将来のスター候補の短所をみつけることは容易いはず、いろいろと技術的に修正したい欲求もあったことでしょう。彼は、そこをじっと辛抱し、見守りつづけたといいます。

この監督と選手との信頼関係が、高山選手には大きな勇気となったことは言うまでもありません。

 

組織においても、若手の積極登用が出来るか否かは、マネジャーの「腹のすわり」が試されるところです。マネジャーは自らが優秀なプレイヤーだった時の「残像」が消えず、ついつい細かな指導をしてしまいがちです。そこをぐっとこらえ、あえて若手に権限を委譲し、失敗したら俺が責任を取るとばかりに、じっと後方で見守る姿勢が必要です。

上司と部下の信頼関係は、そのようなプロセスを経て醸成されるものです。

 

金本新監督が阪神タイガースの、いや、今イメージダウンが著しい日本プロ野球の未来を変えてくれるかもしれません。

そのマネジメント手法の裏に、混とんとする日本社会において、組織をマネジメントするビジネスパーソンにとって、一つの光明を見つけることが出来るかもしれません。

今、一人の新監督に、日本中の視線が注がれようとしています。

 

人材育成コンサルタント 田原洋樹

阪神・金本新監督に見る、最強マネジメント術 5つのポイント

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